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会社法の内部統制と金融商品取引法の内部統制は何が違うのか

  • 4月6日
  • 読了時間: 8分

はじめに

前回の記事では、日本の内部統制制度が、会社法に基づく内部統制と、金融商品取引法に基づく内部統制報告制度、いわゆるJ-SOXを中心に整備されてきたことを解説しました。

内部統制を学ぶうえで、多くの方が最初に混乱しやすいのが、会社法の内部統制金融商品取引法の内部統制の違いです。

どちらも「内部統制」と呼ばれますが、対象となる会社、目的、求められる対応、監査、開示の位置づけが異なります。

本記事では、会社法の内部統制と金融商品取引法の内部統制の違いを、上場会社の実務担当者向けにわかりやすく整理します。


会社法の内部統制とは

会社法の内部統制は、会社全体の業務の適正を確保するための体制を整備するものです。

会社法では、取締役会設置会社において、取締役の職務執行が法令および定款に適合することを確保するための体制や、会社および企業集団の業務の適正を確保するために必要な体制について、取締役会が決定する事項として定められています。特に大会社である取締役会設置会社では、これらの体制整備に関する決定が必要とされています。

会社法の内部統制は、財務報告だけを対象とするものではありません。

たとえば、次のような事項が関係します。

  • 取締役の職務執行が法令・定款に適合する体制

  • リスク管理体制

  • 取締役の職務執行に関する情報保存・管理体制

  • 取締役の職務執行が効率的に行われる体制

  • 使用人の職務執行が法令・定款に適合する体制

  • 企業集団における業務の適正を確保する体制

  • 監査役等への報告体制

  • 監査役等の監査が実効的に行われる体制

つまり、会社法の内部統制は、会社全体のガバナンス、コンプライアンス、リスク管理、子会社管理、監査体制を含む広い枠組みです。

上場会社だけでなく、大会社など一定の会社にも関係する点が特徴です。


金融商品取引法の内部統制とは

金融商品取引法の内部統制は、主として上場会社の財務報告の信頼性を確保するための制度です。

金融商品取引法では、有価証券報告書を提出する会社に対して、財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するために必要な体制について評価した報告書、すなわち内部統制報告書の提出を求めています。

この制度は、一般にJ-SOXと呼ばれます。

J-SOXでは、経営者が自社の財務報告に係る内部統制を評価し、その結果を内部統制報告書として提出します。また、内部統制報告書は、監査法人等による内部統制監査の対象となります。内部統制報告書の監査証明については、金融商品取引法第193条の2および関連内閣府令に基づいて定められています。

ここで対象となるのは、会社全体の内部統制のうち、特に財務報告に影響する部分です。

たとえば、次のような業務が関係します。

  • 売上計上

  • 仕入・外注費計上

  • 在庫管理・棚卸

  • 固定資産管理

  • 人件費計上

  • 決算整理仕訳

  • 連結決算

  • 開示資料作成

  • ITシステム管理

金融商品取引法の内部統制は、会社法の内部統制よりも、財務報告の信頼性に焦点を当てた制度といえます。


会社法と金融商品取引法の違い

会社法の内部統制と金融商品取引法の内部統制は、次のように整理できます。

比較項目

会社法の内部統制

金融商品取引法の内部統制

主な目的

会社全体の業務の適正を確保すること

財務報告の信頼性を確保すること

主な対象会社

大会社など一定の会社

有価証券報告書を提出する上場会社等

対象範囲

ガバナンス、リスク管理、コンプライアンス、子会社管理、監査体制など会社全体

財務報告に係る内部統制

主な対応

内部統制システムの基本方針、社内体制の整備・運用

経営者評価、内部統制報告書の作成・提出、内部統制監査対応

監査との関係

監査役等による監査の対象

監査法人等による内部統制監査の対象

開示との関係

事業報告等での記載

内部統制報告書・内部統制監査報告書

簡単にいうと、会社法の内部統制は会社全体の業務の適正を確保するための広い仕組みです。

一方、金融商品取引法の内部統制は、上場会社の財務報告の信頼性を確保するための仕組みです。


目的の違い

会社法の内部統制は、会社全体の業務の適正を確保することを目的としています。

そのため、財務報告だけでなく、法令等の遵守、リスク管理、取締役の職務執行、子会社管理、監査役等への報告体制など、会社運営全体に関わります。

一方、金融商品取引法の内部統制は、財務報告の信頼性を確保することを中心としています。

上場会社は、投資者や市場に対して財務情報を開示します。その情報に重要な誤りがあれば、投資判断を誤らせ、市場の信頼を損なう可能性があります。

そのため、金融商品取引法では、財務報告に係る内部統制を経営者が評価し、内部統制報告書として外部に提出する制度が設けられています。

ただし、財務報告の信頼性は、経理部門だけで確保できるものではありません。

売上、購買、在庫、固定資産、人件費、IT、子会社管理など、多くの業務プロセスが財務報告に影響します。

その意味では、金融商品取引法の内部統制も、会社全体の業務運営と密接に関係しています。


対象会社の違い

会社法の内部統制は、主に大会社など一定の会社が重要な対象になります。

大会社である取締役会設置会社では、会社法上、業務の適正を確保するための体制整備に関する取締役会決議が必要です。

これに対して、金融商品取引法の内部統制報告制度は、有価証券報告書を提出する上場会社等が対象になります。

そのため、既上場会社では、会社法に基づく内部統制と、金融商品取引法に基づく内部統制報告制度の両方を意識する必要があります。


監査の違い

会社法の内部統制は、監査役、監査等委員会、監査委員会などによる監査の対象になります。

監査役等は、取締役の職務執行を監査する一環として、内部統制システムの整備・運用状況を確認します。

一方、金融商品取引法の内部統制では、経営者が作成した内部統制報告書について、監査法人等が内部統制監査を行います。

内部統制監査は、財務諸表監査と一体的に実施されます。これは、財務報告に係る内部統制の評価と、財務諸表監査上のリスク評価が密接に関係しているためです。

つまり、会社法の内部統制では監査役等による監査が重要であり、金融商品取引法の内部統制では監査法人等による内部統制監査が重要になります。


開示の違い

会社法と金融商品取引法では、開示される書類も異なります。

会社法では、事業報告などにおいて、内部統制システムに関する事項や運用状況の概要が記載されます。

一方、金融商品取引法では、内部統制報告書が有価証券報告書とあわせて提出されます。また、監査法人等による内部統制監査報告書も開示されます。

上場会社の実務担当者にとっては、会社法上の事業報告と、金融商品取引法上の内部統制報告書・有価証券報告書が、それぞれ異なる目的を持つことを理解しておくことが重要です。


実務では両者を一体で考える

会社法の内部統制と金融商品取引法の内部統制は、制度上は異なるものです。

しかし、上場会社の実務では、両者を完全に切り離して運用することは現実的ではありません。

たとえば、次のような社内体制は、会社法上の内部統制にも、金融商品取引法上の内部統制にも関係します。

  • 取締役会・監査役等の機能

  • 職務権限規程・稟議規程

  • 経理規程・決算手続

  • 内部監査体制

  • コンプライアンス体制

  • リスク管理体制

  • 子会社管理体制

  • 情報システム管理

たとえば、子会社管理体制が不十分であれば、会社法上の企業集団管理の問題になるだけでなく、連結財務諸表の誤りや開示遅延につながる可能性があります。

また、情報システム管理が不十分であれば、会社全体の業務運営に影響するだけでなく、財務報告データの正確性にも影響します。

このように、制度上の違いを理解したうえで、実務では会社全体の内部管理体制として一体的に整備・運用することが重要です。


上場会社の担当者が押さえるべきポイント

上場会社の内部統制担当者が押さえるべきポイントは、次の3つです。

1つ目は、会社法の内部統制は会社全体の体制、金融商品取引法の内部統制は財務報告に係る体制という違いです。

2つ目は、J-SOX対応は経理部門だけの仕事ではないということです。財務報告は、会社全体の業務プロセスから作られるため、営業、購買、製造、人事、情報システム、子会社管理など、多くの部門が関係します。

3つ目は、制度上は異なっても、実務上は一体的に考える必要があるということです。規程整備、内部監査、リスク管理、コンプライアンス、IT統制、子会社管理などは、会社法対応にもJ-SOX対応にも関係します。

内部統制を有効に機能させるためには、会社法対応、J-SOX対応、内部監査、監査役等の監査、監査法人対応をばらばらに考えるのではなく、会社全体のガバナンス・リスク管理・コンプライアンスの一部として整理することが重要です。


まとめ

会社法の内部統制と金融商品取引法の内部統制は、どちらも重要ですが、目的と対象が異なります。

会社法の内部統制は、会社全体の業務の適正を確保するための体制です。一方、金融商品取引法の内部統制は、上場会社の財務報告の信頼性を確保するため、経営者が財務報告に係る内部統制を評価し、内部統制報告書として提出する制度です。

制度上は異なるものですが、実務上は、取締役会、監査役等、内部監査、経理、法務、情報システム、事業部門が連携し、会社全体の内部管理体制として整備・運用することが重要です。

次回は、上場会社に求められる内部統制の全体像として、全社的内部統制、業務プロセスに係る内部統制、決算・財務報告プロセスの関係を解説します。

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