日本の内部統制制度はどのように始まったか:会社法・J-SOX・内部統制報告制度の流れ
- 4月4日
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はじめに
第1回から第3回では、内部統制の基本的な考え方、4つの目的、6つの基本的要素について解説しました。
今回は、日本における内部統制制度がどのように整備されてきたのかを見ていきます。
上場会社の内部統制実務では、会社法に基づく内部統制と、金融商品取引法に基づく内部統制報告制度、いわゆるJ-SOXの両方を理解する必要があります。
内部統制という言葉は、現在では上場会社の実務に広く定着しています。しかし、制度としての内部統制は、会社法、金融商品取引法、企業会計審議会の基準、内部統制報告制度などが段階的に整備される中で、現在の形になってきました。
本記事では、日本の内部統制制度の流れを、会社法、J-SOX、内部統制報告制度を中心に整理します。
内部統制が注目されるようになった背景
内部統制が注目される背景には、企業不祥事、不正会計、開示情報の信頼性に対する社会的関心の高まりがあります。
上場会社は、株主、投資者、金融機関、取引先、従業員など、多くの利害関係者と関わりながら事業を行っています。そのため、会社の財務情報や開示情報に誤りがあったり、法令違反や不正が発生したりすると、会社の信用だけでなく、市場全体の信頼にも影響します。
内部統制は、こうしたリスクを低減し、会社が健全に運営されるための仕組みとして位置づけられてきました。
特に上場会社では、財務報告の信頼性を確保することが重要です。投資者は、会社が公表する財務諸表や開示資料をもとに投資判断を行うため、それらの情報が正確で信頼できるものであることが求められます。
会社法における内部統制
日本における内部統制制度を理解するうえで、まず押さえたいのが会社法に基づく内部統制です。
会社法上の内部統制は、会社全体の業務の適正を確保するための体制を整備するものです。
具体的には、取締役の職務執行が法令および定款に適合することを確保する体制、会社および企業集団の業務の適正を確保する体制、情報保存、リスク管理、効率的な職務執行、監査役等への報告体制などが関係します。
会社法の内部統制は、財務報告だけを対象とするものではありません。会社全体のガバナンス、コンプライアンス、リスク管理、子会社管理、監査体制などを含む、広い意味での内部管理体制といえます。
そのため、会社法の内部統制を理解する際には、J-SOX対応や内部統制報告書だけを思い浮かべるのではなく、会社全体の業務の適正を確保する仕組みとして捉えることが重要です。
金融商品取引法とJ-SOXの導入
次に重要なのが、金融商品取引法に基づく内部統制報告制度です。
金融商品取引法は、2006年に成立し、内部統制報告制度は2008年4月1日以後開始する事業年度から適用されました。内部統制報告制度は、上場会社等を対象に、財務報告に係る内部統制について、経営者による評価と公認会計士等による監査を求める制度です。
この制度は、日本版SOX法、いわゆるJ-SOXとも呼ばれます。
J-SOXでは、上場会社の経営者が、自社の財務報告に係る内部統制が有効に整備・運用されているかを評価し、その結果を内部統制報告書として提出します。また、内部統制報告書は、監査法人等による監査の対象となります。
ここでいう内部統制は、会社全体の内部統制のうち、特に財務報告の信頼性に関係する部分に焦点を当てたものです。
たとえば、売上、仕入、在庫、固定資産、人件費、決算・開示、連結決算、ITシステムなど、財務報告に影響する業務プロセスが対象となります。
内部統制報告制度とは何か
内部統制報告制度とは、上場会社が財務報告に係る内部統制を評価し、その結果を報告する制度です。
具体的には、経営者が財務報告に係る内部統制の有効性を評価し、その結果を内部統制報告書として作成します。内部統制報告書は、有価証券報告書とあわせて提出され、監査法人等による内部統制監査の対象となります。
制度の目的は、財務報告の信頼性を高めることにあります。
財務諸表や開示情報に重要な誤りがあると、投資者の意思決定に大きな影響を与えます。そのため、財務報告に至る業務プロセスや決算・開示プロセスにおいて、重要な虚偽記載につながるリスクを識別し、それに対応する統制を整備・運用することが求められます。
内部統制報告制度は、単に書類を作成する制度ではありません。会社の業務プロセスを可視化し、財務報告に関係するリスクと統制を整理し、継続的に評価・改善する仕組みです。
会社法の内部統制とJ-SOXはどう関係するか
会社法の内部統制とJ-SOXは、別々の制度ですが、実務上は密接に関係しています。
会社法の内部統制は、会社全体の業務の適正を確保するための体制を対象とします。一方、J-SOXは、財務報告の信頼性を確保するための内部統制を対象とします。
つまり、会社法の内部統制は広い枠組みであり、J-SOXはその中でも財務報告に焦点を当てた制度と考えると理解しやすくなります。
たとえば、次のような仕組みは、会社法上の内部統制にも、J-SOXにも関係します。
取締役会や監査役等による監督
職務権限規程や稟議規程
経理規程や決算手続
内部監査体制
リスク管理体制
コンプライアンス体制
子会社管理体制
情報システム管理
このように、上場会社の実務では、会社法対応とJ-SOX対応を完全に切り離して考えるのではなく、会社全体の内部管理体制として一体的に整備・運用することが重要です。
内部統制実務は「整備」から「運用・改善」へ
内部統制報告制度の導入当初は、業務フロー、業務記述書、RCMなどの文書化に大きな負荷がかかりました。
しかし、制度が定着した現在では、単に文書を作成することよりも、内部統制が実際に有効に運用されているか、環境変化に応じて見直されているかが重要になっています。
たとえば、次のような変化があれば、内部統制の見直しが必要になります。
組織変更
新規事業の開始
M&Aや子会社の増加
システム変更
クラウドサービスの利用拡大
海外拠点の拡大
会計基準や開示制度の変更
人員体制の変化
内部統制は、一度整備すれば終わりではありません。会社の事業や組織が変化すれば、リスクも変化します。
そのため、上場会社の内部統制担当者には、前年踏襲で評価を進めるのではなく、会社の状況に応じて評価範囲や統制内容を見直す姿勢が求められます。
2023年改訂と現在の内部統制実務
内部統制制度は、導入後も見直しが行われています。
金融庁は2023年4月に、企業会計審議会が取りまとめた「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について」を公表しました。
また、金融庁は2023年8月に、内部統制報告制度に関するQ&A等の改訂も公表しています。
この改訂により、内部統制実務では、評価範囲の決定理由、リスク評価、ITへの対応、開示すべき重要な不備への対応などを、従来以上に説明できることが重要になっています。
つまり、現在の内部統制実務では、単に制度導入時に作成した文書を維持するだけでは足りません。会社のリスク、事業環境、IT環境、グループ体制の変化を踏まえ、内部統制を継続的に見直すことが求められます。
この改訂内容と実務への影響については、別の記事で詳しく解説します。
上場会社の担当者が押さえるべき視点
日本の内部統制制度の流れを理解するうえで、上場会社の担当者が押さえるべきポイントは次の3つです。
1つ目は、会社法の内部統制とJ-SOXは目的と対象が異なるということです。会社法は会社全体の業務の適正を確保する体制、J-SOXは財務報告の信頼性を確保する制度です。
2つ目は、J-SOXは経理部門だけの制度ではないということです。財務報告は、販売、購買、在庫、固定資産、人件費、IT、子会社管理など、会社全体の業務プロセスから作られます。
3つ目は、内部統制は継続的に見直すものということです。会社の事業内容、組織、システム、法制度が変われば、内部統制も見直す必要があります。
内部統制を「監査法人に提出する資料を作る作業」と捉えると、制度の本質を見失いやすくなります。
内部統制は、会社が市場や社会から信頼されるための経営基盤です。
まとめ
日本の内部統制制度は、会社法に基づく内部統制と、金融商品取引法に基づく内部統制報告制度を中心に整備されてきました。
会社法の内部統制は、会社全体の業務の適正を確保するための体制です。一方、金融商品取引法に基づくJ-SOXは、上場会社の財務報告に係る内部統制について、経営者が評価し、内部統制報告書として提出する制度です。
内部統制報告制度は、2008年4月1日以後開始する事業年度から適用され、上場会社の財務報告の信頼性を確保する制度として定着してきました。
現在の内部統制実務では、制度導入時の文書化対応にとどまらず、会社のリスクや環境変化に応じて、内部統制を継続的に見直すことが重要です。
次回は、今回触れた「会社法の内部統制」と「金融商品取引法の内部統制」の違いについて、対象会社、目的、監査、開示、実務対応の観点から詳しく解説します。



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